文・谷竜一
3月2日・3日に、スタジオイマイチでは俳優の山縣太一さんをお迎えして演劇ワークショップを開催しました。10代から40代まで、演劇経験も未経験から俳優として活躍中の方まで幅広い方にご参加いただきました。
「チェルフィッチュのボディ担当」という山縣さんの景気のいい自己紹介からワークショップはスタート。
まずは「赤ちゃんストレッチ」。床に寝そべって、あくびをしながら身体を気持ちいいところから気持ちいいところへと動かしてほぐしていきます。
リラックスしたところで自己紹介に移ります。みんなで顔を見あって、名前、今年の抱負、自分のチャームポイントを言ってもらいます。チャームポイント?と戸惑う参加者ですが、山縣さんのアシストを受けながら、一人ひとりが自分について話していきます。参加者が「チャームポイントは背中」と言っていたのを受けて、「背中のどのあたり?」「じゃあ、肩甲骨ってことにしていい?」「左の肩甲骨?」と、より細かく、個別的なところへ意識していきます。
全員のチャームポイントが出揃ったところで、次は自分の近しい人の描写をしてもらいます。お母さんや弟、先輩、友達からペットまで、いろんなひとの動きや話しぶりに注目すると、魅力的な素材が集まりました。
「走らない」というルールで手つなぎ鬼、氷鬼。氷鬼では、みんなで確認したチャームポイントを意識して固まるというルールが追加されます。次は他人のチャームポイントをもらう、2つ同時に意識する、という風にステップアップします。「複数やっているときも100%ずつで意識しよう」と山縣さんは言います。氷鬼を経てみると、参加者からは「(チャームポイント以外の)無意識なところを逆に意識するようになっている」というような気づきの声があがりました。
少し休憩を挟んで、チャームポイントを使っての自己紹介。重要なのは「できるかできないか」でなく、「トライすること」。ポイントを意識することで情報量が増えてくるように見えることを、山縣さんは「身体が喋りだす」といいます。自己紹介をする、という同じ仕事をしているのに、ポイントを意識することで、単にわかりやすいということではなく、より魅力的な動きが生まれます。一人ひとりの参加者を見ながら、山縣さんはアドヴァイスを加えていきます。扱いやすいチャームポイントはちょっとした縛りをかけて。扱いにくいチャームポイントはより伝える意識を強く持てるように。「手が冷たくなりそう」「身体の向きを変えることで伝えることに関する意識が変わる」といったリアクションが参加者から出てきます。
全員が自己紹介を終えると、次は二人一組でチャームポイントの交換をしてみます。お互いにどうしたらより良くなるのか、アドヴァイスをしあいます。パートナーを変えながら、更に相手のポイントと自分のポイントを同時にやってみます。どう違うのか?どうやったらできるのか?何度か試していく中で、参加者の説明がよりクリアになっていく様子が印象的でした。それぞれのペアで、チャームポイントが一種の「振り付け」になっていきます。また、男女の骨格の違いで身体に変化が出るのかも?といった問題も見えてきました。
1日目の最後に、各々の好きな「振り付け」を確認して、それを使って2グループに別れて短いシーンを作ってみます。好きな振り付け3つと「何もしない」状態を使って、面白おかしい不思議なシーンが披露されました。
実際に役を演じる際にも、山縣さんは身体のイメージから着手する、と言います。身体に課す仕事をどんどん増やしていくと、ひとつひとつの集中度は落ちるけれど、そこにトライしていく。その集中度に注目していくのが「たいちメソッド」のひとつなんだそうです。できない人ががんばる、というような時の努力する姿のような、今、立ち上がってくるもののほうが「より太った表現になるのでは」という山縣さんからの提示で、1日目は終了。
2日目は再び赤ちゃんストレッチから。昨日との身体の変化を確認します。そして、再び自己紹介。チャームポイントを見せてから、「昨日の夜、寝る前からここに来るまでにしたこと」や「部屋の間取り」を聞きつつ、更にチャームポイントを意識してやってみる、というのを一人ひとり試してみます。
「語尾に『の』を付けてみてください」「手を叩いたのに反応してみて」「返事をして」「悪口を言われたらチャームポイントで制してみて」等、身体の中だけでなく外の状況に反応することも取り入れながら、山縣さんのアイディアでどんどん仕事が増えていきます。仕事を増やして増やして、参加者それぞれがなんだかよくわからないけれども魅力的な状態にどんどん変化していきます。「忙しいけれど、ハードワークして、ハードワークして、はじめて日常の身体に追いつける気がする」と山縣さんは言います。
全員分ひとまわりすると、次はチャームポイントとその他の箇所にに目、耳、口、鼻のマークを貼ります。ペアになって、目じゃないところで見る。口じゃないところでキスする。耳じゃないところにささやく。ひとつひとつのパーツを意識しながら、ここでもどんどん「仕事を増やす」ということを意識化していきます。
更に男女に別れて、一列に並んで身体を使った合コン(?)に突入。意中の人を決めて、その人が近づくとマークを張ったポイントが反応する、ということをやってみます。外からだと見え見えなのに、想われている人は、「近くで見ていると意外とわからない」だとか、「思ったより強く出さないと伝わらない」といった声が上がります。また、身体のどこかで見ようとすることで、身体を大きく使えるようになってくるようです。ひとつひとつは些細な変化ですがその人の姿全体に与える変化は意外なほど大きなもののように感じられました。
もう一度パーツを意識しながらの氷鬼を経て、最後に、3チームに別れて簡単なクリエイションをします。材質・感情・中身・色といったお題の中から3つを選んで、「3ついっぺんに同じパワーで」やってみる。チームの何人かは演出をし、何人かはパフォーマンスをします。チームごとでお互いにお題あてをしますが、すぐぱっと伝わるものもあり、伝わらないものもあり。演出する側とパフォーマンスする側を入れ替えながら、伝わらなくてもどかしいところを自分の表現で伝えていきます。
そして、ひとりで3つやってみる。自分の中で仕事を増やして、「これをやる」という命令をする。同じお題からも様々な表現が生まれました。
山縣さんのひょうきんながらに丁寧に、一人ひとりを見ていく姿が印象的な二日間でした。また、参加者の皆さんの身体が意識を切り替えて行くことでどんどん魅力的に見えてきました。それは単に「これが伝わったから面白い」ということではなく、「何なのかはわからない何かのイメージ」を立ち上げることを試みる身体の面白さだったのでは、と感じられました。
山縣太一さん、参加者のみなさん、楽しい二日間を本当にありがとうございました!